百工房アートスペースとデッサンオンデマンドの、合同デッサン講習会を開催しました。
SNSを使い、モチーフは描き始める前に発表という形式です。
今回のモチーフは、短くなった鉛筆2本と練消し、デッサンをする人が必ず持っているモチーフです。モチーフセットをして、よ~い・どんで描き初め、描けるだけ描いて、1時間たったら終了。
参加者作例
採点 43点/50点中
鉛筆の面や文字、光沢のある握り部分と木の質感の違い、とても細かく描けています。下側余白が、少し空いてしまったことが惜しいですね。
採点 41点/50点中
描写は良く出来ていますが、木の陰、練消しの影の濃さに、もっと違いを付けると更に良くなります。鉛筆を渡して、構図を工夫したところは効果的です。しかし、もう少し全体的に拡大して、余白を少なくした方が良かったですね。
採点方法
デッサンの採点方法は、形、光 、構図 など、それぞれの要素を配点し合算する、総合評価方式です。デッサンなら、十分に客観的な評価基準になります。余談ですが、アートの場合、面白さは総合点では計れないでしょう。面白くない作品の方が、総合評価が高くなる可能性があります。アートの面白さを生み出すことは、それだけ大変でアンバランスさを伴う。総合的でバランスのとれたデッサン力は、それを支える目的があるのだと思います。
参加者について
初めての試みでしたが、皆さんが消極的だった理由の一つとして、テストのハードルが高く感じたのかも知れません。また、デッサンオンデマンドは通信制であるため、現実に対して距離がある方が多いようです。参加したお二方は、出品経験もあるベテランでしたので、心の余裕を感じました。
デッサンを練習する意味について、テストやコンクールの意味について、作品制作の大切さについて、もっと真剣にお伝えしていく必要を感じました。
テストとは?
今回は、テストの意味と効果について、お伝えします。
テストは、一つの計りです。テストの目的は、自分の実力を知るためにあります。受験コースの模試は、大概の場合一人で、試験を想定したものを繰り返し行います。
しかし、テストを多くの人と一緒に受けた場合は、比較が生まれます。順位が生まれ、競争という意味が加わります。テストでは、自分の実力を知ることと、人と比べることとは、表と裏のように不可分の状況があります。
皆さんに「なぜテストがあるのか?」とお聞きし、このようなご意見をいただきました。
「まず、「なぜテストがあるのか」という問いを、「なぜ人を戦わせるか」という視点で考えてみました。
なぜなら、テストの合格点(赤点など)も、他者の平均的な点数がありきのもので、常に他人との比較や競争体制が付き纏っていると考えたためです。そのような点においては、テストはスポーツに共通する部分もあると感じます。
思うこととしては、
ー狩りが必要なくなった時代に有り余ったエネルギーを、対戦・競争という形にすることで昇華する、人類の定めなのではないか。
ー人類には元来「誰かの上に立ちたい」という競争心が本能的に備わっており、それを刺激するのではないか。観戦する人たちは、他者が戦っているのをみることのみを楽しんでいるのでなく、自分が誰かを応し、その者が相手に勝利することで、自分の競争心が満たされるのではないか。テストには、誰かを応援するという文化はないが、「誰かの上に立ちたい」という本能を刺激することで、効率的に生徒の学力を向上させることができるという思惑があると考えられる。
私自身、スポーツにおける対戦や観戦に心惹かれないのですが、学校のテストなどではとても燃えてやっていたことを覚えています。その点では、私は誰かに勝つという欲望を学力で満たしていたのかもしれません。テストで良い点を取ることが人の欲望の結果だとしたら、スポーツや別の才能を持ち合わせている人がわざわざ学校のテストで他者の上に立とうと考えるエネルギーも少なくなるのだと思います。」
テストを、人と比べること、競争する視点でのご意見です。成績優秀で、アグレッシブな方だと思いました。このような方なら、美術コンクールなどに果敢にチャレンジしていけると思います。是非、頑張ってください。
競争という一面は、テストではどうしても付きまといます。美術というと、個人が行うもので競争とは無縁というイメージをお持ちの方がいると思いますが、美術受験は実技競争そのものであり、美術大学によっては激しい競争率があります。美術というものは、本来的に競争的であるべきかと問われれば、そうでは無いと思います。美術の良さは、点数で測れるようなものではない。
しかし、興味深いことに、競技の最高峰であるオリンピック選手から、「自分との闘い」という言葉をよく聞きます。なぜ「自分との闘い」なのでしょうか?他の人と競うのは自分自身であり、そのために自分を高める必要がある、だから「自分との闘い」なのだと考えれば、その気持ちは納得できます。競争から個人へ、ぐるりと回って、個人から競争へという関係があるようです。
もちろん、その厳しさは我々とは比べるべくも無いでしょうが、美術の場合は、もっと良いものを作りたいと思うことが、「自分との闘い」であると思います。数値で測れない良さを、生み出していくことの困難も伴います。経験を積むほどに、過去作品=過去の自分とも闘うことになります。
受講されている皆さんには、受講開始時に目的をお聞きしているのですが、大きな目標をお持ちの方がほどんどです。大きな目標に比べると、デッサンのテストの方がはるかに楽です。初心を思い出し、大きな目標の前の慣らしとして、テストを利用することをお勧めします。