百工房アートスペース生徒作品展2020、展示が終了いたしました。 ご報告いたします。新型コロナ・ウイルスの影響もあり、人数を少数に絞っての展示となりました。展示内容と作者のコメントを掲載いたしますので、閲覧いただければ幸いです。

[場所] 天神山文化プラザ 第1展示室 小室  [会期] 2020年7月21日(火)~7月26日(日)

 以下、展示内容の掲載ですが、
作家名→作品画像→[作品タイトル]→[制作年]→[素材]→[作品コンセプト]→[プロフィール]→[経緯と今後の方針]
という順番で表記しています。


木村俊昭 Kimura Toshiaki

[作品タイトル]
変化する自画像 – 現在 未来 悠久 - 
[制作年]
2020年
[素材]
鉛筆、紙
[作品のコンセプト]
姿見の前で現在の自身の顔、未来の老人の姿、悠久の時で樹木化した自画像を描きました。変化していく姿は自身が理想とする姿です。多くの旅を経てたくましく洗練された老人の姿。長い時間を経て過去の辛いことがちっぽけなことに感じられる樹木の姿。それぞれが今の自分にはないものがある憧れる姿です。
[プロフィール]
ゲーム会社志望のフリーター。ゲームグラフィックデザイナーになれるよう日々デッサンやイラストを学んでいます。上手くいかないときもありますが、絵に向かって集中している時間が一番悩みから解放される瞬間です。
[経緯と今後の方針]
今回の作品では変身をテーマに現在、老人、植物に変わっていく自画像を描きました。鏡の前で現在の自分の顔と想像の自画像を描きましたが、終盤になっても完成イメージを中々まとめられませんでした。先生に聞かれて始めて完成形を意識し進めることが何度もありました。絵のテーマを見つけて盛り上げること、立体感、明暗の出し方、差をつけることは完成までに特に曖昧なまま進めてしまっていた箇所で反省すべき点です。

良かった点もたくさんあります。作品が力強い、自画像の目に力が宿っていると言ってもらえたことです。一人で描いているときにはこのことには気づけませんでした。じっくり私の作品を見ていただき、これはあなた?とマスク越しでも判ってコミュニケーションを取ってくれる人もいました。自分の絵のどこが評価されているのかを相手目線から知ることが出来たのは本当にいい経験になりました。

同時に、作品展では周りと自作品を比べる機会も多くあり、自分がこれで良いと思っていることは他の人から見れば消極的で、まだまだやれることがあったことにも気づかされました。技術や作品のクオリティを理由に、自分は未熟だからと控えめに作品を作ってしまうことは、言い訳をしていたに過ぎないことを痛感した思いです。それよりもいい作品にするために出来ることを考え、失敗を恐れずチャレンジしてみることが今の自分には大切であると作品展を通じて実感しました。このことは忘れずに自分の作品へとつなげていきたいです。


田近泰典 Hironori Tajika

[作品タイトル]
SCRAP
[制作年]
2020年
[素材] 
紙 鉛筆 ペン 透明水彩
[作品コンセプト]
パネルを貼った紙から鉛筆でデッサンその上からインク、透明水彩を載せました。アメリカの山中をドライブしてた時に見つけた光景。打ち捨てられた車体から苔や草が生い茂る姿がどこか神秘的でした。
[プロフィール]
20才の時、ノーマンロックウェルの作品に出会い感動して、独学で絵を描いてきました。20世期初頭のアメリカンイラストレーションを画風として目指してます。
[経緯と今後の方針]
とあるアメリカの山奥にてスクラップにされたクラッシクカーが無造作に打ち捨てられていました。植物やコケに覆われた錆びだらけの車体はどこか神秘的で見るものを圧倒させました。それを写真に収めて個人宅で製作。自分が現場で感じた感動をできるだけ絵に表現しました。

ケント紙にグラファイト鉛筆でデッサン。B1用紙でのデッサンは初めてなのでだいぶ苦労しました。デッサン技術に未熟な点も多く、まだまだ課題が必要と痛感しました。デッサン白黒でも作品としては十分かと思いましたが、展示をすると決意してから作品に色付けをする決意を固めました。

ある程度デッサンで形ができてきたら、水彩、アクリル、色インクで色付け、試行錯誤でペイントを繰り返して、錆びついた車体、こびりついた苔などは綺麗に表現できた。車体を覆っている草などは印象派画家の筆タッチを意識し、なるべくはっきりとは描かずに緩やかな色合いで表現。背景は一番苦労しました。どうするか明確なアイデアがなく、草原にしたり、壁にしたりと試行錯誤をくりかえし、先生からのアドバイスによって優しい感じの黄色となり作品の雰囲気がうまくまとまりました。

更なるデッサン技術の向上、絵画の構成をもう少し色々考えて組み合わせていきたいです。ちゃんとした作品を創作する前に、サンプルとしていろんな構図の作品を2つ3つ制作してから、一番良いサンプルを参考に作品創作を進行していきたいです。


久本有美子 Yumiko Hisamoto

[作品タイトル]
破壊と再生 
[制作年]
2020年
[素材] 
ペン、透明水彩、色鉛筆、パステル
[作品コンセプト]
現在、世の中に蔓延するネガティブな感情や出来事を、自分なりに噛み砕き、バケモノとして表しました。地上を侵食、破壊していくバケモノ。それに立ち向かう少女と少年に再生への希望を託しました。バケモノを倒すのか、バケモノに倒されるのか、それともバケモノと共存するのか、少女と少年の未来を色々と想像してもらえたら、と思います。
[プロフィール]
子供の頃に読んだ少女漫画やジブリ作品に大きな影響を受けて、今も働きながら細々とイラストを描いています。まだまだ未熟ですが、もっと表現力豊かな絵を目指し、精進する日々です。
[経緯と今後の方針]
私は、幼い頃から漫画を描く事が好きだったのですが、その漫画のテーマとなるものはいつも、自分の内から湧き出て来るもの、悩み、葛藤でした。今回の作品では、感受性豊かな少女が、怒りの感情をコントロール出来ずにバケモノを生み出してしまうという人間の心の闇と、世の中のネガティブな出来事、感情をテーマとして描き進めていきました。自分の想いを絵の中の少女と少年に託すことで、自らの気持ちが乗り、作品制作の間はとても楽しく、充実したものでした。

しかし、その一方で、「よりよい作品にしたい。けれど、時間や技術がなく、思い通りに進まない。」という焦りの気持ちに追われ、物語やキャラクター、構図などをあまり掘り下げる事が出来ず、結果、テーマの闇の部分がぶれてしまった事は否めません。作者として、作品の核となる部分をしっかり構築し、それをより良く表現するために、決して暴走せず冷静な判断を持つべきではなかったかと痛感しています。自分の能力、作者としての向き合い方をもう一度見直し、今、自分は何を表現したいのか、その為にはどうすれば良いのかを明確にし、作品制作に取り組んでいくことがこれからの課題だと思っています。


安田尚美 Naomi Yasuda

[作品名]
宝探し 
[制作年]
2020年
[素材]
アクリル
[作品コンセプト]
「子供の頃から錆びたものに惹かれ、よく空き地にひとり入っては落ちている中から自分の好きなものを探して夢中で集めていたことがありました。大人になっても鉄の扉や壁などに惹かれる模様があるとしばし立ち止まって眺めることがあります。子供の頃の宝探しは級友からの「変なの」という言葉でショックを受けてやめてしまったのですが、今回の制作の中で、その頃の楽しさを思い出していました。
この作品は、長年感じてきたその惹かれていく感覚を形にしてみようと取り組みました。なぜ自分がそのように感じるのかは掴めず探りながらの制作でしたが、これまでになく自分そのものと対峙していたように思います。途中になっていた宝探し、また始めてみようと思います。
[プロフィール]
岡山市で「ゆくり」という器の店を営んでいます。絵を描くことは一番幼い頃に初めて好きになったことで、芯のようなもの。大切にしています。
[経緯と今後の方針]
「錆びたもの」が幼い頃から好きなのですが、それは同時に自分の深い部分へ繋がり痛みを感じる部分で、これまで題材として取り組もうと思いながら触れられずにきたものでもありました。今回の作品は「錆びた金属の壁」をモチーフに、そこに惹かれる感覚を形にしようとしたものでした。
上から重ねて描くのではなく、下から湧き上がる錆や風化した感じを出すのにアクリルを使い、重ねては削ってを繰り返しました。今まで出来なかったことに取り組めたこと、思っていた以上にとても楽しかったこと、そしてそれを観ていただけたことはとても良い経験となりました。
しかし、それならもっと長い時間をかけ、もっと大きな画でエネルギッシュに深く濃く積み重ねできたのではないだろうかという反省があります。生活や仕事があろうが、逆算して毎日少しずつ積み重ねることが、コンセプトとしてもこの絵には必要なことでした。先生に手法を教えて頂いただけでなく、自分で考えるべき作品の本質的な部分にまで導いていただき、学習発表会になってしまっていたと言わざるを得ません。プロの先生方、プロ志望の皆様の中に混じって展示させてもらう意味、考えたいと思います。自分の作品を客観的に観た今回の反省は今後も心に刻んでいきます。


山吹あらら Arara Yamabuki

[作品タイトル]
青い鳥
[制作年]
2020年
[素材]
紙・ペン・鉛筆・透明水彩・CG
[作品のコンセプト]
現代アートに憧れて、自分もアーティストになりたいと思っていたのですが、自分には薄っぺらな物しか描けず、自己嫌悪する日々でした。器以上の事を望んでも仕方がないと、自分が描きたいと思う、いつも描いているイラストを描きました。毎日目にするA4用紙でも、積み重ねたら大きくなれる、こんな私の絵でも、夢を広げる事が出来るかもしれない?という願いを込めて制作しています。
[プロフィール]
イラストレーター・漫画描き・グラフィックデザイナー。
書籍や広告にイラストや漫画を描いたり、映像を編集したり、ホームページを作ったり、チラシを組んだりする仕事をしています。今は銅版画にハマっています。定期的に作品発表するのが手近な夢。子どもネタの漫画も制作したいです。
[経緯と今後の方針]
幼少期から漫画を描いてきました。現在は広告系のグラフィックデザイナー・イラストレーターを生業にしております。この作品のキャラクターは幼い兄妹で、古ぼけて錆びた空想世界を舞台に、自分の居場所、役割、幸せを探しているという設定です。主に銅版画を中心にこのシリーズを展開させて行きたいと考えております。自分の目標として、「可愛い人物を登場させつつ、イラストに芸術性を付加する」というのを掲げています。今回、A4サイズのボードをタイル状に並べたり、床に置いたり、背景にラフスケッチを配したり、実験的に色々と試してみましたが「そういう事ではないな」というのが結論です。とにもかくにも、違いなく私の絵はアートではない。

「自分がアートだと感じる物」
・なんか凄みがあって突き詰めた何かを感じる。
・やたらと味わい深くて、なんとも個性的だ。
・奇抜で浮世離れしていて、今まで見た事がなくて、新しい感じがする。
・作り手の哲学、社会に投げかけるメッセージ性を強く感じる。

技術面でも方法でも手段でもなく、もっと精神的に何かに迫っていかなければ、芸術エキスは出て来ないのだろうな・・・と、おぼろげながらに感じております。今後も積極的に発表の場を持ち、自分を追い込んで行きたいと思います。


歳森 勲 Isao Toshimori

[作品タイトル]
水の時間  
[制作年]
2019~2020年
[素材]
インク、和紙
[作品のコンセプト]
2~3か月間、和紙にインクを滲み付けたもの。浸けたり、乾かしたりする以外は、一切、水の性質に任せた。
恩師、榎倉康二氏に捧ぐ。
[プロフィール]
1967.06  香川県生まれ
1997.03  東京芸術大学大学院後期博士過程 美術研究科油画専攻修了

個展
2016.1   「ホライズン Horizon」      秋山画廊、渋谷区千駄ヶ谷
2013.9   「Melt-through  融解する絵画」  秋山画廊、渋谷区千駄ヶ谷
2009.10  「浮遊体 Floating」       秋山画廊、渋谷区千駄ヶ谷
1996.06  「歩行儀式」          秋山画廊、神田
1995.07  「NEVERTHELESS」       秋山画廊、神田
1993.07  「自然への方途」        秋山画廊、神田 など

グループ展
2003.07  「旅人の迷路」    越後妻有アート-トリエンナーレ2003、新潟県
2000.07  「コンポスト-ハウス」  越後妻有アート-トリエンナーレ2000、新潟県
1995.08  「野点」       白州フェスティバル、山梨県
1994.08  「白州巡礼」     白州フェスティバル、山梨県 など

[経緯と今後の方針]

この作品は、100枚のハガキ大の紙を、一緒に2~3か月間浸け込み、水の景色を定着するものです。5年前から始め、年賀状のお返事として「送り付けていた」もので、今回初めて、まとまった空間でお披露目することが出来ました。

会場は一年前から予約していましたが、年初より新型コロナ・ウイルスの影響が広がり始めていた時期より、展示する人数が少なくなることが予想されました。そのため、この作品は年初より準備を始め、参加人数によって作品数を調整するつもりでいました。結果的に空間の半分以上を占拠することになりましたが、苦肉の策でもあることは申し上げておきます。

この作品の今後といたしましては、インターネット経由で、ご所望の方にお届けできる体制を作って行きます。年賀状のメール・アートとしては、今後致しません。ネット環境が広がるにつれて、物を介した丁寧なコミュニケーションが少なくなっていくこと、送り手と受け手の思いが不均衡であることが理由です。

榎倉康二氏は私の師であり、「浸み」という現象を打ち出した「もの派」の作家として有名です。「恩師、榎倉康二氏に捧ぐ」という文言で、私は今後、師とは別の道を歩むということを申し上げました。語り尽くせない思いを飲み込んで、今ここから出来る仕事をしていきます。新作はこちら


総評

新型コロナ・ウイルスは、我々の生活も大きく変えました。今回の展示に関しては、当教室が運営しているオンライン教室―デッサンオンデマンドで、参加した皆さんと遣り取りを行いながら、制作を進めて行きました。直接作品を見ながら、改良を繰り返す従来の方法と違い「もどかしさ」もありますが、それぞれが自主的に考え制作した経験は、「作家性」として良い結果に繋がっていく確信があります。この報告ページは、私自身が皆さんにコメントするのではなく、皆さん自身で作品に対するコメントを全て用意していただいたものです。少々、読み応えあり過ぎる、詳しい内容になりましたが、ご一読有難うございます。

最後に、このような時節にも関わらず、会場に足を運んでくださった方、感謝いたします。会場スタッフの皆様はもちろん、隣の会場で展示されていた関係者で、ついでにご覧いただけた方も、有難うございました。自分と葛藤しながら、現実と葛藤しながらもがいている、もう少々若者と言えなくなった年齢の、駆け出し「作家」の面々ではございますが、これからも応援よろしくお願いします。歳森 拝