百工房アートスペース生徒作品展2021は、コロナ禍にも関わらず、意外に多くの人に見ていただくことが出来ました。展覧会に足を運んでいただけました方、厚く御礼申し上げます。また、ご覧いただけなかった方も、このHPで、展覧会に参加された皆様の作品と、コンセプトを掲載いたしますので、ご覧いただけましたら幸いです。

[場所]
天神山文化プラザ 第5展示室 岡山市北区天神町8-54)

[会期]
2021年8月3日(火)~8月8日(日)

[出品者]
草野和政・木村俊昭・田近泰典・羽合孝文・久本有美子・道綱たけし・安田尚美・歳森 勲・山吹あらら
※あいうえお順、敬称略

 

 

草野和政
タイトル : 夕陽と鯉
製作時期 : 2021年8月
画材 : 木材・絹本著色
コンセプト : 前回作品「月と鯉」対の作品
前回の作品(2018年作)では、父親が好んだ鯉を主体に巨匠の胸をお借りして月夜を泳ぐ鯉を描きました。今回の作品では、昨年の七夕に永眠した父親と残された母親と自分に対して、夕陽に照らされた雲の中を泳ぐ錦鯉を描きました。

 

 

木村俊昭 Kimura Toshiaki
タイトル : 笑い猿
製作時期 : 2021 年
画材 : 木材 スチレンフォーム 紙粘土 スカルピー粘土
コンセプト : 猿が笑う理由は人間の愚かさを笑っています。世界的困難の中でも自己の利益を求め、他者を排除する現代人の暮らし。それを見た自然に生きる猿は愚かしく滑稽に感じるでしょう。猿なんかに笑われて、と怒る人もいるかもしれません。しかし、逆に今の自分の矮小さを省みるきっかけになるかもしれない。私自身は日頃から他人を無闇に排除していないか、自分への戒めでもあります。
プロフィール : 20代からデッサンや2Dイラストを描いていました。最近になって自身のやりたいことである造形に向き合い、作品
として取り組んでいます。

 

 

田近泰典
左から
タイトル : 午後のひととき

製作時期 : 2021 /4/29
画材 : 水彩

タイトル : 台湾から贈りもの
製作時期 :  2021/6/2
画材 : 水彩

タイトル : 夏の風物詩
製作時期 :  2021/7/30
画材 : 水彩

 

 

羽合孝文 Takafumi Hawai
タイトル : レモンと海
製作時期 : 2021 年
画材 : ケント紙 鉛筆(3H – 6B)
コンセプト : 世の中を覆う閉塞感・停滞感・不安感が、レモンのさわやかさで吹き飛んでなくなり、海に飛び出すような解放感を得られるようになれば、という思いを絵にしました。力及ばず未完成ですが、今回の作品作りでは多くのことを学ぶことができました。
プロフィール : コロナ禍で新しく絵を描き始めました。自分の感情を表現するような作品を作っていくことができれば、と思います。

 

 

久本有美子 Yumiko Hisamoto
タイトル : 偽りの怪物
製作時期 : 2021 年
画材 : ペン、透明水彩
コンセプト : 長引くコロナ禍の中、現在多くの人がストレスを抱え、世間では負の感情が蔓延しているように感じます。そんな事がきっかけでこの絵が生まれました。可愛い着ぐるみで隠しているものの、本当は醜い姿をしている怪物。その怪物の胎内に閉じこもっている彼女は、大きなストレスを抱え、そのマイナスエネルギーから、ついにはその醜い怪物を生み出したのです。安心できるお腹の中で、怪物を通して、様々な情報や物 …自分の「執着」を摂取する彼女。しかし、それは毒になり、体はどんどんボロボロになっていきます。果たして、彼女はこれからどうなっていくのでしょうか?
社会を生きる私達は、多くのストレスを抱えています。彼女のように、ふとした事がきっかけで、醜い怪物を生み出してしまうかもしれません。自分にとっていちばん幸せな生き方は何なのか、問い続ける日々です。
プロフィール : 子供の頃から少女漫画やジブリ映画などに影響を受けて、漫画ばかり描いていました。現在は働きながら、細々とイラストを描いています。

 

 

道綱たけし Takeshi Michitsuna
タイトル : 空想建築断面図-知恵の国-
製作時期 : 2021 年
画材 : アクリル絵の具、漆喰 漆喰下地にアクリル絵の具で描写したもの。
コンセプト : 欲望をテーマに空想上の文化の発展と衰退を表現した。
プロフィール :
1982  岡山県生まれ
[個展] 
2009 「 出石町芸術百貨街09(」岡山)
2013 「 道綱たけし展-face-」天神山文化プラザ(岡山)
    ※ アトリエとしもり生徒作品展の一部として
2017 「 道綱 たけし展」ルネスホール公文庫カフェ(岡山)
[グループ展]
2012 「 アトリエとしもり生徒作品展」天神山文化プラザ(岡山)
2017 「 ビジョトヤジュウ展」excafe(岡山)
2019 「 百工房アートスペース ドローイング展-百ドロ-」

 

 

安田尚美 Naomi Yasuda
タイトル : 生きてきた 生きていく
製作時期 : 2021 年
画材 : パネル アクリル
コンセプト : 人生は地層や年輪に似ているように思います。生まれ落ちてから重ねる様々な経験や感情を一つ一つの色に見立て、自分自身の今を表現しました。毎日少しずつ重ねたり削ったり繰り返す中で、これまでいかに助けられ生かされてきたかを教えられるような感覚がありました。同時に、内側にコンプレックスや毒のある感情、エネルギーが潜んでいたことにも気付かされました。一度でも起きたこと、考えたことは白く覆い隠そうとしても消えるものではなく、堆積し自身を構築する素材となります。最後に出来上がるであろう地層が、少しでも面白く美しくあれば、と思います。
プロフィール : 岡山市で「ゆくり」という器の店を営んでいます。絵を描くことは一番幼い頃に初めて好きになったことで、芯のようなもの。長く大切にしていきたいと思っています。

 

 

歳森 勲 Isao Toshimori
タイトル : Glaucus in SNS
製作時期 : 2021.8
コンセプト : 2020.12~2021.3の期間、グラウカス・シリーズの「つる」作品画像を、コンセプトと共に、SNS上で発表しました。その記録を、今回、本にまとめました。

タイトル : Suit
製作時期 : 2020.9
コンセプト : グラウカス・シリーズの「Suit」作品、2020.9に、Space23℃で発表したものです。「闘う女性」のイメージから、その身を守る服(鎧)を制作しました。
プロフィール : https://isaotoshimori.com/

 

 

山吹あらら Arara Yamabuki
タイトル : 空が飛べたなら
製作時期 : 2021 年
画材 : 紙・ボールペン・透明水彩
コンセプト : ここ数年、蒸気機関と魔法が混在するファンタジー世界のイラストを描いていまして、それを短編漫画にしてみました。レトロな雰囲気を出すために、つけペンでなくボールペンを使用しています。ガサガサした風合いで勝手に荒れる所が気に入っています。漫画はCGで描くのが主流になってきましたが、紙とペンの摩擦が手に伝わってくる感じが好きで、癒されます。
プロフィール : イラストレーター・漫画描き・グラフィックデザイナー。
書籍や広告にイラストや漫画を描いたり、映像を編集したり、ホームページやチラシを作ったりする仕事をしています。今は銅版画にハマっています。定期的に作品発表するのが手近な夢。子どもネタの漫画も制作したいです。

 

 

終わりに

主体を持つ、それは絵を描く場合は、自分が描く、自分のために描く、ということになると思いますが、それは言葉では簡単なようで、主体を持つことと主体を持てないことの間には、様々な心理がグラデーションのように横たわっているようです。受験生では、主体をもって、画力を自分のものにしないと試験に合格しない、そういうはっきりした基準があるように思いますが、一般の方の場合は、時間もいくらでもあるし、何を描いても自由なのですが、主体というものを持つことは意外と難しいことであることに、今回気が付きました。

その気付きにつながったのは、やはりコロナ禍です。今回の展示で、皆様の積極性が出てきたのは、コロナ禍の長い耐乏生活で、今まで抑えてきたものが噴き出すタイミングに合ったところはあります。生存のために、もう後ろを向けない、前を向かざるを得なくなったという、限界を意識したことから生まれた積極性。しかし、そうであるのなら、更にエネルギーが勢いよく噴き出すように思えるのですが、それほどでもなかったのは、皆さんの迷いがあったからだと思います。それは自分が描く、自分のために描くということに確信が持てなかったからです。

この展覧会の前に、「毒」をテーマにコンクールを行いました。それは、コロナ、コロナ禍の毒を意識することで自覚が生まれる、そのことが「闘っていくぞ~」という、困難に対抗する「心の免疫」を持つことにつながるのではないか?という「仕掛け」でもありました。しかし、コンクールから今回の展覧会までの流れを振り返ると、「毒」を掘り下げたことが今回の作品につながっていたか?作品制作に早くから取り組んだか?と問うなら、つながっている人は一部でした。多くは、この展覧会とコンクールの間にブランクがあり、「人に見せるから頑張る」「人に見られるから恥ずかしいことは出来ない。」という外的要因を、ご自身の原動力にしていたと思われます。

コロナ禍は、主体を持っているかそうでないかということを、炙り出し続けます。教室に通うことでモティベーションを保っていた人は、気持ちが離れて描かなくなる人が多いようです。頑張って通い続けている人でも、デッサンの練習を自覚的に行っていない場合、忘れてしまって、画力が落ちるということが起こります。自分が描く、自分のために描く、ということを自覚している人は、通信制に切り替えても、安定して自分の実力を発揮しているようです。

コロナ禍は、大変な試練を我々に与えています。その試練の中には、主体を持って抗えるかどうか?という節目が含まれているような気がします。「自分の好き」を守るためにも、自分が描く、自分のために描くということに立ち戻って頑張って欲しいと、応援するのみです。 
〔文責 主催者 歳森 勲〕